2026年2月14日、世界最大のヘッジファンド、ブリッジウォーター・アソシエイツの創業者であるレイ・ダリオ氏が、X(旧Twitter)で衝撃的な声明を発表。
「世界秩序が公式に崩壊した(It's Official: The World Order Has Broken Down)」——この宣言は、ミュンヘン安全保障会議での各国首脳の発言を根拠に、第二次世界大戦後80年間続いた国際秩序が終わりを迎えたことを意味しています。
ダリオ氏は、自身が長年研究してきた「ビッグサイクル理論」に基づき、現在の世界が歴史上何度も繰り返されてきたパターンの「最終段階」、すなわち秩序崩壊のフェーズに入ったと警鐘を鳴らしましたが、この警告は、投資家だけでなく、すべてのビジネスパーソンや市民にとって、今後の人生設計を左右する重要な示唆を含んでいます。
本記事では、RayDalio氏の警告を翻訳し、要点をまとめていますが、大前提として、筆者の主観は一切含めず、なるべく簡潔にまとめているため、ダリオ氏の警告を読んでどう感じるかはあなた次第。
あくまでも主張の1例ですが、何かしらの気づきや参考になるかもしれない。
ミュンヘン安全保障会議が示した「終焉のシグナル」

2026年2月にドイツで開催されたミュンヘン安全保障会議では、世界各国の指導者たちが揃って、戦後秩序の終焉を認める発言を行いました。
- ドイツ首相フリードリヒ・メルツ氏
- 「数十年にわたって存在してきた世界秩序はもはや存在しない。我々は『大国政治(great power politics)』の時代に入った。この新しい時代において、自由はもはや当然のものではない」
- フランス大統領エマニュエル・マクロン氏
- 「ヨーロッパの古い安全保障構造は、以前の世界秩序とともに消滅した。ヨーロッパは戦争に備えなければならない」
- 米国務長官マルコ・ルビオ氏
- 「我々は『新しい地政学の時代』に入った。なぜなら『旧世界』は消え去ったからだ」
これらの発言は、単なる修辞的表現ではありません。
会議で発表された「Security Report 2026(安全保障報告2026)」のタイトルは「Under Destruction(破壊の下で)」。
この報告書は、1945年以降のルールに基づく国際秩序が機能不全に陥り、力による支配が復活していることを詳細に分析しています。
ダリオ氏の解釈:「力が正義」の時代への回帰
ダリオ氏は、これらの発言を自身の「ビッグサイクル理論」の第6段階「崩壊フェーズ」の典型的な兆候として位置づけており、この段階ではルールに基づくシステムが崩壊し、「力が正義(might makes right)」という原則が支配的になると警鐘を鳴らしています。
歴史的には、1930年代から1945年にかけての時期が最も類似していおり、当時も、第一次世界大戦後に築かれた国際秩序が崩壊し、ファシズムの台頭、経済のブロック化、そして第二次世界大戦へと逆らいようのない強い流れとなり、突き進んでいきました。
ダリオ氏が警告する「5つの連動する危機」とは?
本記事では、ダリオ氏が警告する「5つの連動する危機」についてもおさらいを兼ねて、簡単に触れていきます。
1:膨大な債務(Mounting Debt)
近年では、各国政府、企業、個人の債務が歴史的水準に達しています。
特に先進国では、GDP比での政府債務が第二次世界大戦時を上回る水準に膨張。この債務は、金利上昇により返済負担が急増し、財政破綻のリスクを高めました。
- 米国の政府債務は35兆ドルを超え、GDP比で約130%に達している
- 債務返済のための利払い費用が、国防費を上回る規模に拡大
- 財政再建のための増税や歳出削減が、経済成長と社会の安定を脅かす
2:拡大する富の格差(Widening Wealth Gaps)
過去40年間で、富裕層と一般市民の間の経済格差が劇的に拡大。この格差は社会の分断と政治的な対立を深刻化させています。
- 米国では上位1%の富裕層が全体の富の約40%を保有
- 中間層の所得は停滞し、生活水準が低下
- 教育、医療、住宅など基本的サービスへのアクセス格差が拡大
3:ポピュリズムの台頭(Rising Populism)
経済格差と既存政治システムへの不満から、「ポピュリズム」が世界中で勢力を拡大している。これは、従来の政治的コンセンサスを破壊し、社会の分断が加速。
※ポピュリズムとは、一般大衆の感情や不満、要求を代弁し、既存のエリート層を批判することで支持を得ようとする政治姿勢や運動のこと。日本では「大衆迎合主義」と訳される。
- 極右、極左政党の台頭により、中道政治が機能不全に
- 移民排斥、保護主義、国家主義的な政策が拡大
- 民主主義的制度への信頼低下
4:地政学的対立(Geopolitical Rivalries)
米国と中国の覇権争いを中心に、世界は新たな冷戦構造に突入しています。この対立は、経済、技術、軍事のあらゆる領域に及ぶ。
- サプライチェーンの分断と「デカップリング」の進行
- 技術覇権を巡る競争激化(半導体、AI、量子コンピューティング等)
- 軍事的緊張の高まり(台湾海峡、南シナ海、ウクライナ等)
5:気候変動の影響(Climate Change Impacts)
気候変動による災害の激甚化、食料・水不足、人口移動が、既存の社会・経済システムに深刻なストレスを与えています。
- 異常気象による経済損失の拡大
- 食料・エネルギー価格の不安定化
- 気候難民の増加による国際的な緊張
ビッグサイクル理論:歴史が示す6つの段階
ダリオ氏の「ビッグサイクル理論」は、過去500年間の帝国の興亡を分析し、国家が辿る典型的なサイクルを6つの段階にまとめたものとなっていますが、ビッグサイクル理論ってなに?という人もいるかもしれないので、要点を簡単におさらいしておきましょう。
- 第1段階:新秩序の誕生
- 戦争や革命の後、新しい通貨制度、経済・政治システムが確立される。
- 平和と繁栄への期待が高まる。
- 第2段階:創造的成長期
- 教育、イノベーション、生産性の向上により、経済が急成長。
- 信用が拡大し、投資と消費が活発化。
- 第3段階:バブルと債務拡大
- 過剰な信用創造により、資産バブルが発生。
- 格差が拡大し始めるが、表面的には繁栄が続く。
- 第4段階:バブル崩壊と債務危機
- 金融危機が発生し、経済が収縮。
- 失業率上昇、企業倒産、銀行危機などが連鎖的に発生。
- 第5段階:内部対立の激化
- 経済危機により格差が顕在化。
- ポピュリズムが台頭し、社会が分断されることで”政治的混乱”が深刻化。
- 第6段階:秩序の崩壊と戦争
- 既存の秩序が完全に機能不全に陥り、「力が正義」の原則が支配的になる。
- 内戦や国際戦争のリスクが高まる。
- 戦争により債務が膨張し、通貨の信認が崩壊。最終的に新しい秩序への移行が起こる。
ダリオ氏は、2026年現在の世界は「第6段階(秩序崩壊フェーズ)」に入ったと明言。
歴史的には、1930年代から1945年の時期と最も類似しており、この時期は大恐慌、ファシズムの台頭、第二次世界大戦という激動の時代でした。
米国の現状から見る「内戦の瀬戸際」
ダリオ氏は、米国を「火薬庫(tinderbox)」と表現し、社会的分断が臨界点に達していると警告しており、具体的な例として、ミネアポリスでの銃撃事件や、ドナルド・トランプ大統領の下で加速する政治的対立を挙げています。
- 民主党支持者と共和党支持者の間で、基本的な事実認識すら共有できない状況
- 暴力を伴う政治的対立の増加
- 連邦政府への信頼度が歴史的低水準に
ダリオ氏は、これらの状況が「より明確な内戦(more clear civil war)」へと発展するリスクがあると指摘。
これは、銃撃戦を伴う伝統的な意味での内戦だけでなく、社会の分断が修復不可能なレベルに達し、国家が機能不全に陥る状況を含んでいます。
また、ダリオ氏は国際的に米国主導の秩序が侵食されつつある点にも触れており、中国をはじめとする新興国が、西側の支配に挑戦し、独自の影響圏を拡大。米ドルの基軸通貨としての地位も、長期的には脅威にさらされているとのこと。
- 同盟国との関係悪化(NATO、日韓など)
- 国際機関における影響力の低下
- 経済的競争力の相対的低下(特に製造業)
- 軍事的優位性の縮小(中国の軍拡、ロシアの核戦力近代化)
投資家への具体的アドバイス
ダリオ氏は投資家への具体的なアドバイスにも触れており、その中には、法定通貨からの分散や金への投資の話も含まれているため、あくまでも”1例”としてご紹介しておきます。
1:債務と法定通貨からの分散
ダリオ氏は、債務証券(国債、社債など)と法定通貨(ドル、円、ユーロなど)への過度な集中を避けるよう強く推奨。
戦争は通常、借入と通貨増刷によって資金調達される。これにより、債券の価値は下落し、通貨は切り下げられる。歴史的に大規模な戦争の後には債務不履行(デフォルト)やハイパーインフレーションが発生してきたことを理由として挙げています。
- ポートフォリオの30〜40%を債券以外の資産に配分
- 複数通貨への分散(ドル一極集中を避ける)
- インフレ連動債の活用
2:金(ゴールド)への投資
ダリオ氏は、ポートフォリオに金を組み入れることを推奨。
- 政府や中央銀行の政策に左右されない希少資源
- 通貨価値の下落に対するヘッジ
- 地政学的危機時の「安全資産」
- 歴史的に、秩序崩壊期に価値を保持してきた実績
推奨配分としては、ポートフォリオの5〜10%を金(現物、ETF、金鉱株など)に配分。これにより、通貨危機やインフレに対する保険として機能するとのこと。
3:モダン重商主義への適応
ダリオ氏は、2026年1月のダボス会議(世界経済フォーラム)で、各国のリーダーに「モダン重商主義(modern mercantilism)」と多極化世界への適応を求めています。
モダン重商主義とは、自国産業の保護と育成を最優先でサプライチェーンの国内回帰・友好国回帰、戦略的資源(半導体、レアアース、食料、エネルギー)の自給率向上、技術覇権を巡る国家間競争の激化など。16-18世紀にヨーロッパの絶対王制国家が採った経済政策の発展型。
- グローバル企業よりも、国内市場に強い企業への投資
- 防衛、サイバーセキュリティ、食料・エネルギー関連企業への注目
- 地域分散の重要性(米中どちらか一方への集中を避ける)
4:実物資産への投資
通貨や金融資産の価値が不安定化する中、実物資産の重要性も増しているとのこと。
- 不動産(インフレヘッジとして機能)
- インフラ資産(水道、電力、通信など)
- コモディティ(エネルギー、農産物、工業用金属)
- 知的財産権、ブランド力を持つ企業
日本への影響と投資家が考えるべきこと
ダリオ氏は著書『世界秩序の変化に対処するための原則』の中で、日本の現状についても言及。
日本の現状について、ダリオ氏は「冷徹な観察」をしており、詳細は控えられているものの、一般的に以下の課題が指摘されています。
- 人口減少と超高齢化による経済成長の鈍化
- 膨大な政府債務(GDP比約260%、先進国最悪)
- 米中対立の狭間での難しい外交的立ち位置
- 防衛費増額と財政再建の両立困難
日本の投資家が取るべき戦略
ダリオ氏が推奨している日本の投資かが取るべき戦略は以下の通り。
- 円建て資産への過度な集中を避ける
- 日本の財政状況を考えると、長期的には円の価値が減価するリスクがある。
- 外貨建て資産(米ドル、ユーロ、スイスフラン等)への分散が重要。
- 日本国債への依存を見直す
- 超低金利の日本国債は、インフレが進行した場合に実質的な価値を大きく毀損する。
- 物価連動国債や外国債券への一部シフトを検討すべき。
- グローバル分散投資の徹底
- 日本株だけでなく、米国株、新興国株、コモディティ、金など、幅広い資産クラスと地域への分散が不可欠。
- 防衛関連・食料安全保障関連への注目
- 地政学リスクの高まりにより、防衛産業や食料・エネルギーの自給率向上に関連する企業への投資機会が増加する可能性がある。
歴史は繰り返す:過去の秩序崩壊期から学ぶ教訓
ダリオ氏の理論の核心は、「歴史は繰り返す」という認識。過去500年間で、オランダ、イギリス、米国という3つの覇権国家が興隆と衰退を繰り返してきました。
- オランダ「ギルダー(17世紀)」
- 世界貿易の中心として繁栄 → 英蘭戦争での敗北と経済的停滞により衰退
- イギリス「ポンド(18〜19世紀)」
- 産業革命と植民地帝国により覇権確立 → 第一次・第二次世界大戦での国力消耗により衰退
- 米国「ドル(20世紀〜現在)」
- 第二次世界大戦後の圧倒的な経済力と軍事力で覇権確立 → 現在は債務拡大、格差拡大、政治的分断により相対的衰退期に
覇権国家:中国の台頭
ダリオ氏は、中国が次の覇権国家として台頭する可能性を指摘。ダリオ氏が述べる中国の強みと課題は以下の通り。
- 中国の強み
- 経済規模の拡大(購買力平価ベースでは既に米国を上回る)
- 製造業の圧倒的な生産能力
- 技術力の急速な向上(AI、量子コンピューティング、宇宙開発等)
- 一帯一路構想による経済圏拡大
- 中国の課題
- 人口減少と高齢化の進行
- 不動産バブル崩壊と債務問題
- 技術の国際的な信頼性(セキュリティ懸念)
- 民主主義国家との価値観の相違
最悪のシナリオを避けるために個人が出来ること
ダリオ氏が想定する最悪のシナリオを避けるために、個人として、社会として今できる対応は以下の通り。
個人レベルでの対応
- 資産の分散
- 一つの国、一つの通貨、一つの資産クラスに集中させない。地理的分散、通貨分散、資産クラス分散を徹底する。
- 金融リテラシーの向上
- 歴史的なパターンを学び、危機のシグナルを読み取る能力を磨く。ダリオ氏の著書『世界秩序の変化に対処するための原則』は必読書。
- 現金・流動性の確保
- 危機時に動けるよう、一定の現金や流動性の高い資産を保持する。
- スキルと人脈の多様化
- 経済危機や社会変動に対応できるよう、複数のスキルセットと国際的な人脈を構築する。
社会レベルでの対応
- 格差の是正
- 富の再分配、教育機会の平等化、社会的セーフティネットの強化により、社会の分断を緩和する。
- 持続可能な財政運営
- 債務の膨張を止め、将来世代に負担を先送りしない財政政策への転換。
- 国際協調の維持
- 多極化の中でも、気候変動、パンデミック、核不拡散など、共通の課題では国際協力を維持する。
- 教育とイノベーションへの投資
- 長期的な国力の源泉である教育とイノベーションに、継続的に投資する。
危機を乗り越えるための「5つの原則」
レイ・ダリオ氏の警告は、悲観論ではなく現実主義である...とも言えますが、歴史を学ぶことで、我々は現在地を理解し、将来に備えることができます。
- 歴史から学ぶ
- 過去500年間、同じパターンが繰り返されてきた。我々はそのサイクルの中にいる。
- 多様化する
- 債務、法定通貨、単一国家への集中は危険。分散こそが生存戦略。
- 実物資産を持つ
- 金、不動産、コモディティなど、政府の政策に左右されない資産を保有する。
- 適応する
- 旧来のルールに固執せず、変化する世界に柔軟に対応する。
- 冷静さを保つ
- パニックに陥らず、歴史的視点から冷静に判断する。
我々は今、歴史の大きな転換点に立っています。1945年以降80年間続いた世界秩序が終焉を迎え、新しい秩序への移行期に入ったとも言え、この移行期は痛みを伴うかもしれないですが、同時に新しい可能性も生み出します。
ダリオ氏の警告を真摯に受け止め、個人レベル、社会レベルで準備を進めることが、この激動の時代を乗り越える鍵となるかもしれません。
参照元:@RayDalio(公式X)
参考文献:レイ・ダリオ『世界秩序の変化に対処するための原則——なぜ国家は興亡するのか』(日本経済新聞出版、2023年)、Munich Security Report 2026 "Under Destruction"、Bridgewater Associates研究レポート各種

